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あなたがそう思うのなら もうそれでいいです

『美味しんぼ』の「面白さ」を検証する

 インフルエンザで療養中である。
 すでに療養後期で、明日から職場復帰する予定だ。
 つまり、日常生活にそれほどの支障はない。
 そんな状態でも、とりあえずは横になって安静にしているのだが、そうすると暇をもてあますということになる。
 そんなときにはついつい本棚に手を伸ばして、日頃あまり読まなくなったマンガなど手にとってみたりするのだが、そうして読んでみた『美味しんぼ』が実に面白い。

 いや、面白いというと語弊があるだろう。というより何かが違う。
 『美味しんぼ』は、(絵のことはひとまず措いておくとして)ストーリー構成や展開など、普通にマンガの「面白さ」を評価する際の基準からいえば、面白いとは決していえない。

 主人公の山岡に関わる人々(以下「山岡ら」)の前に、絵に描いたような敵役が現れ、四角四面な主張で山岡らに自分たちの言い分のどこが間違っているのか証明しろと迫る。
 それに対して山岡が「料理で説明する」といって、わざわざ料理を作って食べさせたうえで、その料理に込められた意味を言葉でも説明する(料理、いらないじゃん…)。
 すると、あれほど強情で頑なで喧嘩腰だった敵役が、コロッと180度態度を豹変させて、いや私が悪かったと「心を入れ替える」のだ。
 で、つまらないオチをつけておしまい。
 基本的にはこの繰り返しで、それにシリーズ編として、至高のメニューとの対決だの世界味めぐりだのというのが定期的に差し挟まれるわけだが、それだって結局は料理とその作り方の説明が延々と続くだけだ。*1

 そういったわけで、標準的なマンガの評価方法では決して面白いといえるような作品ではない『美味しんぼ』だが、私にとっては「面白い」のだ。
 そう、違いはこの、面白いと「面白い」、カッコ付きかどうかの違いにある。

 世間の評価として、『美味しんぼ』がどう見られているのか、詳しいことはよくわからないのだが、どうも昨今ではネット右翼によって原作者の雁屋哲氏が「反日」だと叩かれることが多いようで、『美味しんぼ』という作品=雁屋氏そのものという構図で受け取られているようにも見受けられる。
 そしてその構図自体は、ほぼ事実といっていいだろう。
 ネット右翼的な「親日」は、冷静に客観的に国際的に見れば逆に反日(結果的に日本に害悪を及ぼすという意味)であることがほとんどであって、反日が「反日」を叩いているわけだから滑稽極まりないが、そういったイデオロギー的なことを抜きにして考えても、確かに雁屋氏の(というより山岡に仮託した雁屋氏の)主張とか言動だとか価値観などは、ちょっと独特というか、なにか世間から少々ズレた感じがするのは確かだ。
 そういった雁屋氏の「ズレ」が大きな形で表出した部分の『美味しんぼ』が、実に「面白い」のである。
 そして、雁屋氏だけではなく、作画の花咲アキラ氏の描く登場人物も、時に爆笑ものの「面白さ」を生み出している。

 花咲氏といえば、個人的に忘れられないエピソードがある。
 かつて連載誌であるスピリッツの最後、連載陣たちがひとこと書くページにおいて
 「最近は“癒し系”など“○○系”という言葉が流行っていますが、あなたは“何系”ですか?」
 という感じのお題が出されたことがあった。
 当時スピリッツに連載を持っていた喜国雅彦氏は「仮性包系。」という、さすがというからしいというか、ともかく絶妙な回答をしていたのに対して、花咲氏の回答は大意、次のようなものであった。

 「そんなの何系だろうとどうでもいいじゃないか。ほっと系」

 ……書いていて私が恥ずかしくなってしまったが、どうやら花咲氏は、これが面白い、ギャグとして通用する、と思って書いたようだ。
 このコメントを読んで、私は合点がいったのだ。
 あの原作者にしてこの作画者あり、どっちもズレているからこそ、あの「面白さ」が実現しているのだと。

 長々と文章で説明してしまったが、実際に作品を見てもらった方が話は早い。
 と、我ながら身も蓋もないことを言ってしまったが、第12巻「玄米VS白米(前後編)」より抜粋。

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 最初にレギュラーキャラ以外の登場人物だけ紹介するが、ご飯を無心している3人組は武育女子大学柔道部の部員である。
 こんなことになっているいきさつは、厳しい部活の合宿が続いているにもかかわらず、出される食事(玄米食)がまずくてとても食べられず、空腹に耐えかねた3人は、山岡たちが泊まりに来ている近所の民宿にご飯(白米食)の無心に抜け出してきた、というわけである。
 いくら腹減ったからって、いまどき女子大生が夜中に他所様のところにやってきてご飯を無心するかよ!(笑)
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 続いて、先ほどの3人を連れ戻そうと、怖い怖い先輩たちが宿の人の制止も聞かずに足を踏みならしながら不法侵入!(笑)*2
 しかも、この絵に描いたような悪役顔ときたら!
 その後、ひと悶着ありつつ舞台は東京に戻るのだが、ある日突然東西新聞社にやってきた怖い怖い先輩たちに、勤務時間中にもかかわらず山岡が拉致される!上司の富井や谷村は止めるどころか姿も現さない。もうメチャクチャだ。
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 拉致された山岡の前に現れたのは、武育女子大柔道部部長。
 柔道着ですらないが、どうやら武術ならなんでも嗜む家系の出らしいので、もういいから放っておこう。
 山岡は柔道部の玄米を検査して、どこが悪いのか説明することを約束して解放される。
 数日後、検査結果を見るために別の大学を訪れた山岡たちと柔道部員たち。しかし……
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 こいつら、どこへ行くにも武道着と芋ジャージ(笑)*3
 そして初対面の専門家に対して指さしながらひどい言いがかりをつける部長!無礼にもほどがある(笑)
 ちなみに山岡を拉致するために東西新聞社を訪れたときにも部員たちは芋ジャージ姿だった。
 東西新聞社の所在地は東京のど真ん中(古い言い方だ)、銀座周辺である。芋ジャージで電車に乗って銀座へ……(笑)
 その後、安全な有機肥料とは?ということを説明するために、どこか知らんが郊外の牧場へお得意のワープ(笑)
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 もちろんどこへ行こうとも彼女たちは武道着と芋ジャージのままだ。

 さて、どうだっただろうか?
 他にも、画像は紹介しなかったが、柔道部部長が日本刀を持ちだしてくるなど、銃刀法違反の描写もあったりした。
 もちろん笑いのツボは個人によって異なるので、誰もが私のような『美味しんぼ』の楽しみ方ができるとは限らない。
 ネット右翼な人にとっては、「反日な奴の本など手にしたくもない」と思う人もいるかもしれない。
 そういう人は無理に読む必要もないが、ともかく、ほかにも「山岡、世界中に知り合い多すぎ!」とか「海原雄山、不自然に地位高すぎ!」とか「なんで富井はクビにならないの?」など、ツッコミどころは多々あり、それによる世間の感覚とのズレは散見される。
 それぞれの楽しみ方を探していただけたらと思う。

 *1:私が単行本を所有しているのは、40巻あたりまでの、まだ海原雄山から尖った部分が消えきってしまう前までのうち、「面白い」と思うところがある数冊のみである。それ以降のストーリー展開については私の知るところではない。
 *2:最初の3人はお勝手口のドアをノックして合法的に入れてもらっている。
 *3:部長は学生ではなく大学で栄養学の助手をしているそうだが、学生だろうが教職だろうがおかしいことには変わりない。むしろジャージより武道着であちこち出歩く方がおかしい。
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by tima-formosa | 2015-01-20 15:19

by tima-formosa