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あなたがそう思うのなら もうそれでいいです

2015.5.27 三島

 代休を使って三島へ行ってきた。
 去年の夏、新海誠展のために大岡信ことば館へ行って以来だろうか。
 今回は19年ぶりの復活となったKRYZLER&KOMPANY(クライズラー&カンパニー、以下「K&K」)のコンサートを観るのが目的である。
 代休など使わなくても、会社を定時に出てそのまま駆けつければ間に合わないこともなかったのだが、それではあまりに慌ただしくなるし、それよりなにより、できることなら仕事などしたくはないと常に思っているので、丸々一日休むことにした。

 午前中はのんびり支度して、午後から鈍行で三島へ向かった。
 1時間を超える距離で東海道線の鈍行を使うのも久しぶりのことだ。
 かつては長崎県や北海道まで鈍行を乗り継いで行ったりしたものだが、いまやそんな気力はなく、マリにゃんのお誕生日会のために伊東へ行く程度のことでさえ、熱海まで新幹線を使ってしまう体たらくだ。

 コンサートの開演までは余裕があるので、市内を散歩する。
 三島は、富士山の周辺に降って地下に浸透した雨水が、年月を経て湧出する泉が数多く存在する水の町である。
 そういった泉から小さな川が町の中をいくつか流れ、それに沿って遊歩道が作られている。
 そのうちのひとつを歩いて、まずは三嶋大社へ行ってみた。
 いままで何度も三島に来ていながら、三嶋大社を訪れたことは一度もなかった。
 入口から拝殿まで進んでみたが、なにか神社にあるべき荘厳さというようなものがあまり感じられない。
 伊豆国一の宮ということは、社格としては相当な上位の神社だと思われるが、そのために規模が大きく面積も広いため、開けっ広げな感じがするのが、荘厳さを欠く原因だろう。
 ほとんど素通りにちかい形で出口に向かう途中、DonDokoDonの山口智充とすれ違った。
 神社の神職の格好をしていたので、おそらくドラマの撮影だろう。露出している両手と顔が異様に黒い。
 さらに進むと、なにやら大勢の人々で賑わっている一角がある。テレビカメラや照明を手にした人たちがいて、そのほかいろいろな機材も積まれていて、警備員まで配備されている。
 やはりドラマの撮影のようだが、カメラの前にいる浴衣姿の若い出演者たちは、誰が誰だかさっぱりわからない。
 といっても、どれだけ有名な人であろうとも、芸能人に興味がなく、テレビをほとんど見ることもない私では、名前を聞かされたところで「ふーん」であろう。
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 そのまま歩いて佐野美術館前から源兵衛川沿いの遊歩道へ。
 三島市の中心街を貫流していながら、別世界のような自然と静けさだ。
 平日の夕方ではあるが、散歩している人や観光客とおぼしき人ともすれ違った。
 そういえば、流れはきれいに見えるが、まったく魚影が見られない。私が見落としていただけかもしれないが、不思議に感じる。

 開場時間が近づいたので、文化会館前まで行ってみると、そこそこ人が集まりはじめている。
 そういった人々を見ていると、平均年齢がかなり高そうなことに気づく。
 どう低く見積もっても平均55歳、普通に見て60歳くらいだろう。中には見た目90歳以上にしか見えない老婆までいる。
 私の知るK&Kの主要ファン層は、当時のメンバーとそれほど違わない年齢の女性だったはずだ。
 それがそのままスライドしたと仮定すれば、現在では40代となっている女性ということになる。
 しかし実際にはそれより10歳以上の上乗せが発生している印象だ。
 この状況を分析してみると、K&Kのフロントマンが葉加瀬太郎で、その担当楽器がヴァイオリンであることに一因がありそうだ。
 K&Kは一定の成功をおさめて解散したが、老若男女誰もがよく知る存在というほどではなかった。
 葉加瀬太郎の知名度も現在ほどではなく、彼が結婚したときの報道も「高田万由子が結婚~ヴァイオリニストの葉加瀬太郎と」といった見出しがついたほどで、その報道のされ方を見て私は「逆だ、逆!」と思ったものだが、世間の印象というものは私のそれとは違うのだということを思い知らされ、芸能界における「格」というものについて考えさせられたものだった。
 それが一転したのは、やはり解散後に情熱大陸のテーマ曲を手掛け、イマージュという企画CDがヒットしたことによるものが大きいだろう。
 K&K当時の人気を大きく越えて、いまや日本でもっとも有名なヴァイオリニストのひとりとなった葉加瀬太郎には、もはや「元K&K」という肩書きは必要なくなっており、ある意味、K&K時代からは断絶しているような印象すらある。
 そういった状況から、葉加瀬太郎は知っていてもK&Kを知らないという人は大勢おり(今回の客層の多くはそういった人だろう)、K&Kの音楽性がどういうものであったかということも、昔からのコアファン以外に知る者は少ないと思われる。
 加えて、彼の担当楽器のヴァイオリンは、どれだけポップスなどに取り入れられていようとも、いまだにクラシックのための楽器という印象が強く、単純にヴァイオリニストが来るというだけで「ああ、クラシックのコンサートなんだ」と思ってしまうような人も多いだろう。
 そう考えれば、今回集まっている客層と、クラシックのコンサートの客層が似通っているのは納得できる。
 しかし、60歳以上の年寄りが、ましてや90歳以上とも思われる老婆が、果たして「あの」K&Kのコンサートを無事に観ることができるのか、そこは少し気になってしまうところではある。
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 三島公演のチケットは完売とのことである。
 実は、全国9か所10公演のうち、最初に売り切れたのは三島公演らしい。そして、三島公演は三島市民文化会館の自主開催、つまり、会場の方からK&Kに来てくださいとオファーを出して実現したものだ。
 数十万人以上の人口を抱える町ばかりが会場として並ぶなか、小ぶりな町である三島がポツンと存在しているのは、鍵盤担当の斉藤恒芳が修善寺出身ということもあって、ほぼ地元といっていい三島が誘致したものと考えられる。
 呼んだからには満席にしなければ申し訳ないと思ったのだろう、相当がんばって老若男女問わず売り込んだのではないだろうか。それも客の年齢層を引き上げた原因になっていそうだ。

 開演時間が迫るにしたがって、比較的若い人たちが増えてきた。年齢的にもK&K時代からのスライド組と重なる。やはり女性が多い。
 そして、ちいさなこどもを連れた母親、という客もちらほら目につく。こどもにヴァイオリンを習わせている親子ではないだろうか。
 やがて客電が落ち、スクリーンに映像が流された。クラシックの作曲家の年表である。
 その中にK&Kの過去の映像も織り交ぜられている。
 映像の終了と同時に、アルバムに新規カヴァーで収録された「ブライダル・コーラス」からコンサートは始まった。

 感無量だった。
 じつは、当時からファンだったとはいえ、K&Kのコンサートはビデオでしか見たことがなく、実際に足を運んだのはこれが初めてなのだ。
 それに、19年前の解散コンサートには行こうと思えば行けたのに、行っていないのである。
 プレイガイドでまだチケットが残っているのを確認までしていて、一時は行くつもりにもなったのだが、結局は「いろいろめんどくさいから」というしょうもない理由でやめてしまったのだった。
 その後、当たり前だが猛烈な後悔の念が押し寄せてきて、行きたいと思ったライヴにはなるべく行くようにするという現在の方針を確立する原因にもなった。
 葉加瀬太郎はいろいろなところで頻繁に見ることができるが、裏方仕事がメインになっていた竹下欣伸や斉藤恒芳が、舞台の上で主役のひとりとなっている姿を見ることができる日がふたたび来るなどと、つい半年前には考えることもできなかった。
 FNS歌謡祭でベースを弾いている人が2秒だけアップで映って、「あ、タケさんだ!」と、まるで絶滅危惧種の昆虫を見つけたように驚いていた4年前が懐かしく感じられる。
 この日、ステージ上のタケさんやツネさんは、2秒どころか2時間以上連続で視界に入りっぱなしだった。
 それは当たり前のことだが、それが当たり前のことになったのは、やはり奇跡のように思う。

 セットリストは再結成後に発売された「NEW WORLD」からの曲がメインで、過去に演奏したことのあるアレンジ曲は「交響曲第5BURN 炎のベートーベン」だけだった。
 他にはアコースティックコーナーで「前奏曲とアレグロ」「愛の悲しみ」「タイスの瞑想曲」が演奏された。
 メンバーオリジナル曲は「ヴィーナス・ラヴ」だけだった。「燕の島」や「悲しい王様」など、クラシックの名曲とされる曲にも劣らない珠玉のオリジナルがあるだけに、往年のファンとしては少々淋しく感じるところだ。
 今回の復活第一弾ではクラシックのカヴァーを前面に押し出しているので(「ヴィーナス・ラヴ」は特別枠のようだ)仕方ないが、今後に期待したいところだ。
 といっても、今後も活動を継続するかどうかはいまだ不明らしい。
 葉加瀬は継続を熱望しているようだが、それぞれがあまりにも違う方面で活動しているので、難しい気がするのだが……

 心配していた年配の人たちの動向だが、ロビーで見かけた見た目年齢90歳の老婆が偶然にも私の少し前の席だったので、ときどき様子をうかがっていた。
 後半の「強制立ち見時間」では何も見えなくなってしまうので立たざるを得ず、しかし立っても身長の問題で結局何も見えないので、気の毒だった。
 どうせ同じ何も見えないのなら座ってしまえばいいと思うのだが、葉加瀬の「椅子はないものと思ってください」という言葉を律儀に守っていたようだ。
 偶然が重なって、帰りにもこの老婆の姿を見かけたのだが、後半の立ちっぱなしが堪えたのか、会場正面の階段を下りるのさえつらそうにしていて、同行の女性が手助けしていた。
 やはりK&Kのコンサートは、あまりに高齢の人には難しい面があるようだ。

 会場から駅への帰り道は緩やかな登りだ。
 そこを大勢の人たちと駅へと向かう。やはり高齢の人が多い。
 私はしょぼい中年のおっさんだが、そんな私でさえこの中では若造に分類されてしまうだろう。
 坂の途中にはCDの店がある。
 店前の歩道に手製の台を置いて、演歌や歌謡曲のCDを並べている。大きな音量で知らない演歌が流されている。
 コンサート帰りの人をターゲットにしているのかもしれないが、誰ひとり立ち止まる者はいない。
 一般に演歌や歌謡曲の主要顧客は高齢層だが、同じ高めの年齢層でも、葉加瀬太郎に興味を持つような人は演歌や歌謡曲には興味を持たないらしい。
 人の音楽の好みというものは、なかなか奥が深い。





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by tima-formosa | 2015-05-31 01:31

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